
キューバ、ある日常の風景
旅のはじまり。
目的地の空港におりたった瞬間、ガラリと変わる空気がたまらなく好きだ。
空港からも感じられる、その国独特の湿度、空気、匂い、多国籍の人々が行き交い、カラフルな民族衣装に身を包み人や、多言語が飛び交う。
トランジットで立ち寄る人も帰国した人も旅立つ人も入り混じり、その空間は、ある人にとっては別れの場所であり、始まりの場所、そして再会の場所でもある、悲しみと喜びが交錯する、ドラマに満ちた空間だ。
今はたいていの場所で携帯が繋がるようになったが、携帯が繋がらなかった時代は、異国の地で味わう、愛おしくも、煩わしい日常からの解放感にみちあふれていた。
慣れ親しんだ場所や大好きな人たちから遠く離れ、心細さとわくわくする解放感を抱え、これから自分の身に待ち構えているさまざまな出来事を想像し胸を躍らせていた。
初めて訪れた国は、イギリスだった。
退屈な狭い世界からの初めての脱出。
まだ映画やテレビ、音楽、本の世界でしか知らない外国に憧れる、17歳の夏だった。
初めての旅は、みるものすべてが新鮮で驚きと喜びに満ちたものだった。
キッチンから漂ってくる朝食の匂いやパブの喧騒、色彩の美しさ、今でもその細部まで思い出すことができる。
ヒースロー空港におり、緊張した面持ちで、重いスーツケースを運ぶのに苦労していたら、通りすがりのスーツをきた男性が、黙って私のスーツケースをもち、階段の上まで運んでくれた。
幸せなことに、現地の人の優しさに触れたのが、私の旅の記憶のはじまりだ。
あれからずいぶんと時間がたった。旅の仕方も少しづつ変わっていった。
いろいろな国を訪れ、まるで違う景観に酔いしれたり、似た景色を日本に重ねたり。
現地の食べ物に舌鼓をうち、酒を飲む。
そして、何よりもその国の日常、その地で生活する人々がいる風景を記憶に刻み続けている。
有名な観光地よりも何よりも、その国の生活の匂いが感じられる場所や人々が愛してやまない時間やもの、音楽、風景を知りたい。
ほんの一瞬でも現地の風景にストレンジャーとしてではなく、一部になれた至福の時間。